誠実、信頼、そして、希望
小田原市議会6月定例会の開会に際しまして、皆様方にご挨拶できますこと、誠に光栄であるとともに、改めて、その責任の重さに身の引き締まる思いであります。
多くの市民の皆様から信任をいただき、第24代小田原市長に就任しました。市民の皆様、議員の皆様とともに小田原市の輝かしい未来に向け、いかなる困難をも乗り越えていく所存です。
今回の市長選挙は、前回の市長選挙より1.38ポイント投票率が伸びており、市民の皆様の関心の高さがうかがえました。こうした中、過半の得票をいただけたことは、市民の視点に立った市政の立て直しを進めてほしいという民意の表れだと受け止めており、今後、組織体制も整備しつつ、様々な検証を行いながら、良いものは継承し、ゼロカーボン・デジタルタウンの推進など、課題のあるものはしっかりと改めるといったスタンスで取り組んでまいりたいと考えております。
私が今回の市長選挙を通じて一貫して市民の皆様に訴えてきたことは、市民のいのちと暮らしを最優先に市政を立て直し、市政に誠実、信頼、そして希望を取り戻していくということです。今、我が国、そして地域社会は、人口減少、少子高齢化、地域コミュニティの弱まり、社会インフラの一斉の老朽化、貧困や社会格差の拡大といった厳しい状況に置かれています。私たちは、こうした課題群から目を逸らすことなく、直面するいくつもの喫緊の課題を乗り越えながら、地域の可能性を育て、持続可能な小田原へ向けて市政の進化を果たし、確かな未来への道筋をつけていかなければなりません。
そのための取組を体系的に取りまとめ、私がこの任期中に取り組むべき政策を集約させたマニフェストには、多彩な地域資源や豊富な人材等、国内でも稀に見る素晴らしい可能性に満ちたこの小田原の持つ力を最大限に引き出し、育て、そして分かち合うことで実現を目指す「誰もが笑顔で暮らせる、愛すべきふるさと小田原」さらには、「いのちを守り育てる地域自給圏の創造」を大方針に掲げております。加えて、その具現化を図るため、目指すべき地域社会像を構築するための基本的な考え方や、重点的に取り組むテーマとその取組内容等をお示ししております。実施に向けた様々な調整は必要ですが、基本的にはこのマニフェストに則って、任期中における職務を全うし、小田原の可能性と人の力を信じて、市政運営に取り組んでまいります。
本日の所信表明にあたり、このマニフェストの骨格をお伝えし、皆様のご理解とご協力を、改めてお願いするものであります。
はじめに、マニフェストの軸となる、「市政の立て直しを行う5つの視点」と「実現を目指す小田原の3つの姿」について順次述べさせていただきます。
市政の立て直しに向けては、第一に「いのちが最優先」。
子育て、教育、若者、高齢者や障がい者への支援といった、いのちへの寄り添いと支援こそ、行政の最重要ミッションとなります。市民一人ひとりのいのちを大切にしてまいります。
第二に「外向けよりも内なる安心・充実を」。
市民を第一に考え、市民が安心でき誇れるまちを創ることが何より大切です。市外の力に頼る前に、市民・地域・企業が持つ内なる力を活かすことに全力を注ぎ、小田原の自然・人・地域・産業・文化の可能性を大いに引き出し、課題解決を進め、経済の活力を高めてまいります。
第三に「地域での自給を目指す」。
エネルギーや食料品をはじめとした物価高騰等により、社会経済情勢の先行きが不透明な時代となっています。こうした時代において、エネルギー、安全な食、家づくりの材と技、暮らしを支えるものづくり、ケア、教育、地域コミュニティなど、生活に不可欠な土台は、私たちの暮らす地域圏において連携し整えてまいります。
第四に「ツケを未来に回さない」。
次世代のために市全体として事業の優先順位付けや予算配分を厳格に行い、未来に向けて健全な行財政運営を行ってまいります。
第五に「市職員に使命感と誇りを」。
限られた人手で、不安や課題を抱える市民と日々向き合う市職員の本分は、市民の痛みに寄り添い、答えを出していくことです。適正な職員配置を早急に進め、やりがいと誇りを大事にする組織風土を再構築し、市民の幸せにつなげてまいります。
次に、実現を目指す小田原の3つの姿について述べさせていただきます。
本市では、2008年から2020年にかけて市政の重要テーマの一つとして取り組んできた「いのちを大切にする小田原」を不動の政策基盤として位置づけ、その上に築くべき都市像を3つ掲げます。
一つ目として「自然環境の恵みがあふれるまち」です。
森里川海オールインワンの豊かで多彩な自然環境が身近に存在しているのは、小田原の大きな魅力であり、この価値ある自然環境を守り、未来へと豊かな状態で引き継いでいくことは、私たちの重要な使命です。食やエネルギーなどいのちを支える要素、子どもを取り巻く良好な成育環境、市民の暮らしにおける安心や快適さを私たちに与え、都市ブランドを高めることにもつながる自然環境の恵みを、より豊かに育て、持続可能な地域社会の充実へと多角的に活かしていきます。自然環境という最も基礎的な社会共通資本の充実は、人的資本と知識産業の集積をもたらし、新たな文化を育てる土壌となっていきます。
二つ目として「未来を拓く人が育ち生きるまち」です。
地域課題山積の時代にあって、地域社会の命運を握るのは、それらを乗り越えていけるだけの力を持つ人が育ち、活躍することで、持続可能なまちを創造できるようにすることです。それは、子どもたちが地域の中で健やかに育ち、分かち合いの心と課題解決への知恵や力を培うこと、若者が社会の運営に意欲的に参画すること、年齢を問わず自主学習や社会教育が活発化することでもあります。このように、小田原の人的資本を充実させ、協働を進め、それぞれの世代で未来を支える見識と意識を持つ人材が育つことにより、企業活動の活性化や新たな集積による地域経済の再生にも帰結していきます。
三つ目として「多彩な資源が健やかに花開くまち」です。
多彩な自然環境、長い歴史を経て蓄積された産業や文化、活発な市民活動、強い絆を受け継いできた地域コミュニティなど、小田原には他都市にはない多様さで地域資源が集積しています。豊かであるがゆえに活かしきれていないそれらの資源を十全に活かし、つなぐことで、地域社会の持続可能性を確かなものにすることが可能となります。農林水産業やものづくりの現場、歴史や文化、自然環境など、小田原の地域資源の「光」の強化による交流人口・関係人口の拡大、地域資源の厚みを十全に活かした経済活動の充実と産業の育成、そして域内経済循環の拡大という好循環を確立していきます。それは、支え合い分かち合う地域社会の強靭化にもつながっていきます。
ここまで、マニフェストの骨格について述べさせていただきましたが、最後に今後取り組んでいく重要テーマとその主な取組内容をお伝えさせていただきます。
一つ目のテーマ「自然と人間の絆を結びなおす」につきましては、市内各地に多数存在する遊休空間を公・共・私が一体となって利活用する環境再生プロジェクトの再始動、生(なま)ごみ循環などを活かしたゼロエミッションの実現に向けた取組の推進、国内屈指のメダカ保護区としての水田の保全、自伐型林業による地域の荒廃山林の整備促進と木材資源の徹底活用、市民が日常的に食する地域食材に視点を変える「健やかな食のまち」への転換等を進めてまいります。
二つ目のテーマ「弱い立場にある人たちに、日本で一番やさしいまちへ」につきましては、医療機関や商業施設など生活に必要な拠点を循環する、新たな公共交通ネットワークの構築、学校における生理用品の配置及び高齢者向け紙おむつの支給の継続、子ども向け紙おむつの無償化、発達支援の必要な子どもたちを受け入れる幼稚園・保育所の体制整備、ペットと共に生きる地域社会への取組の推進、性的マイノリティへの支援制度における2市8町の広域での連携と整合化等を進めてまいります。
三つ目のテーマ「新しい成長への積極的なチャレンジ」につきましては、小田原少年院跡地における民間開発への支援と連携、地域支援型農業を通じた消費者と生産者が共に恩恵を享受するシステムの育成、再生可能エネルギーの電源開発等を推進する地域公社の構築、ソーラーシェアリングの展開による農業とエネルギー生産の相乗効果、そして、地元中小土木建設事業者の技術支援による社会基盤の長寿命化等に取り組んでまいります。
四つ目のテーマ「学び合い、市民が主役になれる小田原を」につきましては、分野別市民会議の創設による地域課題解決の取り組みへの市民参画促進、大学等と連携した市民向け社会教育プロジェクトの始動、地域活動を体験する義務教育カリキュラムや、子どもたちが民主主義を学ぶ子ども議会の創設、そして、いつでもどこでも、誰でも、身近で学べる市民の自主学習サークルへの支援等に取り組んでまいります。
五つ目のテーマ「人が出会い、つながり、支え合うコミュニティづくり」につきましては、ケアタウン構想の補強と再整備による支え合う地域社会の更なる充実、小学校を拠点とした地域担当職員の配置等による地域コミュニティの支援体制づくり、地域独自のプロジェクトへの活動支援金制度の創設、農と食を題材に子どもも大人も学び育つエディブル・スクールヤードの地域への展開、地域の文化遺産としての歴史的まちなみや祭礼文化の保存継承への支援などを進めてまいります。
以上が、市長就任にあたっての大きな政策の枠組であり、その推進への強い期待と小田原の未来を憂う市民の思いが形となり、今回の市長選挙における民意によって示されたと捉えております。ここに暮らし、ここに生きて、ここで働いて、日々様々な課題や不安を抱えている市民の皆様が安心して暮らせる、このまちに住んで、このまちで子どもを育てて本当に良かった、子どもたちや孫たちにもこのまちで住み続けてほしい、そう思える小田原を創ること、市民が誇れるまちを創る、そうしたまちを目指してまいります。
「誰もが笑顔で暮らせる、愛すべきふるさと小田原~いのちを守り育てる地域自給圏の創造~」の実現に向けて、私たちが直面している様々な困難を乗り越えていくために、小田原の有する自然、人、地域、産業、文化といった力を結集させ、その力を最大限に引き出すとともに、それらを支え推進する行政が、誠実に市民の皆様と向き合うことで、信頼関係を築きながら、二宮尊徳の教えである「推譲」の精神を実践し、「一円融合」の心をもつことが重要です。
私は、人の力を信じています。市長として全身全霊で、課題解決の先頭に立ち、持てる力のすべてを燃焼し尽くす覚悟です。市民の皆様、市議会議員の皆様、そして職員の皆さん、歴史の峠ともいうべき、現代社会の危機的な状況を踏み越え、市民の誰もが安心し、そして誇りと希望をもって暮らすことのできる未来へと続く道を、ともに拓いてまいりましょう。
皆様のご理解とご支援を賜りますよう、心からお願い申し上げまして、私の所信表明とさせていただきます。
令和6年6月10日
小田原市長 加 藤 憲 一
1964年、小田原生まれ。中学2年生までに両親を失うも、小田原高校、京都大学法学部を卒業。
経営戦略、教育、農業、林業、漁業、商業など、様々な現場に携わるかたわら、災害ボランティアや市民活動にも積極的に取り組む。
2008年小田原市長に初当選、以後3期12年を務め、2020年に退任。
市長退任後は、自給農をベースに、耕作放棄地を開拓してのワイン葡萄や有機レモンの栽培、4つの大学等での講師、広域でのネットワークづくりなどに取り組み、汗をかく。
令和6年5月、第24代小田原市長に就任
人口減少、少子高齢化、低成長、コミュニティの弱まり、インフラの老朽化、格差拡大、財政悪化・・・私たちは答えの見えない、不安だらけの時代を生きています。
でも、答えのない時代は、失敗を恐れずに挑戦できる時代でもあります。
多彩な資源に恵まれた小田原は、可能性の宝庫、私は、この「可能性」を「現実」に変えたい。前市政でまいた「希望の種」を、みなさんと最後まで育て抜きたい。
大地に立ち、人の力を信じ、すべてを小田原の未来のために捧げる。私は最後の最後まで、持てる力のすべてを燃やし尽くす覚悟です。